童子-T【ラッパー解説】急激なスタイル変更によるセルアウト批判。現在と昔で全く違うファン層
今回はいで立ち、ラップからにじみ出るクールなキャラクターで日本語ラップ界で人気を博した童子-Tさん(どうじてぃー・以下敬称略)の紹介です。
かつてはAtomic Bomb Crew (アトミックボム・クルー)のメンバーとしてキングギドラのメンバーでもあるKダブシャイン・DJ OASISと共に活動し、日本のHIPHOPファンから大きな支持を得ていました。
しかし2000年代後半あたりから今までの正統派のラップからラブソングを中心としたスタイルに路線変更し人気シンガーとのフィーチャリング曲などが増え、昔のフォロワーからセルアウト批判を多く浴びたラッパーでもあります。
今回は童子-Tの魅力や、その辺のシーンの流れなどについても解説させていただこうと思います。
かつてはクールでハードコアな正統派
彼が活躍し始めたのは2000年前後くらいだったでしょうか。ZINGIというHIPHOPクルーのメンバーでのキャリアを経て、当時は社会派かつイケイケなスタイルだったKダブシャインらと共にアトミックボムのメンバーとして活動し彼の知名度もどんどん高まっていきます。
彼の魅力はストリート臭漂うハードコアな雰囲気を匂わせつつも、ゴリゴリしてないクールなラップやキャラクターとの絶妙なバランスが非常にカッコ良く、当時は自分も大好きなラッパーの1人でした。
特に流行っていたのは『少年a』という曲です。内容としては「どうしようもないワルだった自分が好きな事に出会って人生が変わった」という今からすれば少し古いステレオタイプのストリートラップですが、当時のヘッズにとってはコレがとてもセンセーショナルでした。「少年AからB」(犯罪少年からBボーイへ)は個人的にも名ラインだと思います。
彼の活躍はキングギドラの数年ぶりの復活などとも時期的に重なって、それに合わせたキングギドラ周辺のラッパーとの客演曲などでも大いに存在感を示しており、当時の日本のHIPHOPシーンではかなりプロップスは高かったと思います。
スタイル変貌によるセルアウト批判
しかし2000年代後半あたり、アトミックボム脱退以降から彼のラップは変わっていきます。有名シンガーとの客演曲が増え、アルバムの楽曲なども正統派HIPHOPのものがほぼ淘汰されてラブソングなどを中心としたスタイルになっていきました。
それ以前からもJU-JUや加藤ミリヤらとの客演曲はありました。それは今以上に男くさい業界だった日本のHIPHOPにスパイスを加えた印象がありそれほど批判はありませんでしたが、徐々にそっちがメインスタイルになっていきます。
それまでの彼のファンは前述の通り彼の持つ『ハードコアだけどクールなカッコよさ』を支持していた事もあり、これによって彼はセルアウト批判(※)を大いに浴びる結果となります。そしてかつてのフォロワーの大半が離れていったのです。
また、同胞だったアトミックボムのKダブシャインは当時『セルアウト批判』の最前線に立っていた事もあり、このスタイルチェンジは彼らアンダーグラウンドのラッパー達との決別も意味していました。
(※当時のHIPHOPは今以上にラッパーもファンも硬派な時代で、「メジャーに行く」「ポップな歌を歌う」「売れる」などは『セルアウト(自分を捨てた売れ専野郎)』と批判されやすい傾向にありました。現在は当時に比べるとその風潮はだいぶ和らいでいます。)
これに関しての彼の意見
このセルアウトに関して彼はインタビューで言及しています。
「HIPHOPがカウンターカルチャーでありレベルミュージックであるという事は分かってます。でもHIPHOPの『リアル』だけではなくアーティストの『リアル』も分かって欲しい。これで食べていくなら、がむしゃらにやらなくちゃいけない。仲間もほとんどいなくなって孤独だったから、昔に戻って楽しくやっていた方がいいんじゃないかと思う時もありました。」
「ストリートの子たちは『テレビ番組に出るとかダセえ』って簡単に言うけど、音楽でメシを食うという事は、そういう甘くない芸能の世界の中で生きていくって事です。売れていく事への抵抗も分かるけど、モノを作る側からしたらスルーされるって事が一番辛い。『セルアウト』って言うけど、じゃあラッパーが有名シンガーと共演したからって絶対に売れるかって言ったらそんな事はありません、そんなに甘くない。」
「もちろんこれは俺のやり方でしかない。これが間違っているというのであれば、違ったやり方で成功の事例を作って欲しい。そういった若い人達がシーンから出てきて欲しいと思っています。」
かつてセルアウト批判側にいた事で仲たがいしてしまったKダブシャインの今の活動を見ていると、今は同じような考えを持っているように見えなくもないです。なんとも皮肉なものです・・・。
自分を貫くか、変わるのか
HIPHOPフォロワーは主張の変化にアレルギーを示します。『自分を持つ・貫く』というHIPHOP美学からすれば、昔言っている事と今言っている事が違ったりすると、こういった事が起きるわけです。
しかし人の考えや生き方も変化していくものです。『ずっと貫き続けるカッコよさ』に夢を託すリスナーと、『人は変わるもの』という部分を受け入れる事ができるリスナーで捉え方は変わってくるでしょうね。
個人的には人の生き方としてはどちらの考えも尊重できるものですが、単純に今の童子-Tのラップは音楽的に好みじゃないので聞かなくなってしまいました。
曲紹介は『世界はおまえの手に』にしようと思います。やっぱり今見るとPVに時代を感じますなw。服がダボダボだぁ~懐かしぃ~。でもこの曲は今のファンも昔のファンもどっちも聞けるバランスだと思います。
って事で甘いラブソングが聞きたい方は今の童子-Tを!ハードコアでクールなラップが聞きたい方は昔の童子-Tをチェケラだ!
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